AmlethMachina's Headoverheels
ゴシック・ノワールを標榜するAmlethMachinaによる音楽を中心にした備忘録。
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正則性という正義と組織力学のハードSF
無茶苦茶好きな「宇宙船オロモルフ号の冒険」について、書いてみたい。

工学博士でもある著者、石原藤夫による応用数学テーマの、というよりズバリ複素関数テーマのかなり濃いハードSFである。そもそも、この作者は講談社ブルーバックスで「銀河旅行1、2」という銀河旅行の可能性について大真面目に論じた解説書を著したり、SFマガジンの連載で亜光速ですれ違う宇宙船がどのように見えるかとかエネルギー変換効率とかについて検証したり。おまけに、ハードSF研究所なるボランティア機関(?)を立ち上げるなどハードSFに触れたことのあるものには避けて通れぬ路なのだ。

しかも、この作者のすごいところは理論的可能性を追求する上で、きちんと現時点での工学的、技術的限界を無視することができる点である。表面的にガチガチの知識で固めている人達にはできない真似である。だからこそ「ブラックホールのお茶漬け」なんてアイデアも平気で出てくるのだろう。(*1)

さて、話を戻そう。この物語は迫り来るエネルギーとエントロピーの邪悪に宇宙の正則性をかけて立ち向かう世紀末人類の英知の結晶「オロモルフ号」の戦いを描いておるのだ。ここまで読んで「なんのこっちゃ?」と思ったそこのアナタ。ある意味その直感は正しい。全五章で構成されているのだが、各章「複素関数の特異点」やら「漸近級数展開」「変分論と集合論」と補足がついてわかるように(?)、もろ複素関数の補講を受けているような気分になる展開である。もちろん物語なので予習は不要。複素関数に理解があろうとなかろうと、展開されるイメージの奔流に圧倒されること請け合いで、今まで読んだことないような世界を読みたいという生粋のSF者にはたまらない世界なのだ。実は20ン年前、高校時代にSFマガジンに掲載された第四章「苦闘」で初めてこのシリーズに触れたのだが、ここで展開される宇宙の涯のイメージは鮮烈だった。匹敵する世界は光瀬龍の「百億の昼と千億の夜」か小松左京の「はてしなき流れの果てに」くらいだと今も思っている。

社会人になってから、実家のゴタゴタでどこかになくしたハードカバー版の代わりに文庫版で入手して読み返してみたのだ。その時、初めて主人公ジロウ・コイズミの「主任はつらいよ」的な世界がはっきり見えてきたのだ。実は、この物語は大規模プロジェクト内の組織力学をテーマにしたハードSFだったと断言していい。組織の部門間の軋轢の中、下部組織に位置する主人公が正則性という正義をかけた戦いの中でどのように主導権を握り、舵取りをしていくのか。そのあたりが実は今の自分には愉快痛快だったりする。

ふと思いついたように複素関数のテキストなんて読み返してみる今日このごろである。


(*1)未体験者はヒノ・シオ・コンビの活躍する惑星シリーズから入ることをお薦めする。個人的には「ブラックホール惑星」の野放図さが大っ好きである。整合感を気にするムキは「ハイウェイ惑星」がいいかもしれない。

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